「行くあてのない手紙、お預かりします」──瀬戸内海・粟島の漂流郵便局を訪ねて
週刊女性PRIME 4月2日 9時0分
「行くあてのない手紙、お預かりします」──瀬戸内海・粟島の漂流郵便局を訪ねて
漂流郵便局の臨時局長だった中田さんは、いまも個人でこの郵便局を維持している
拝啓 読者の皆様。この記事を読んでくださり、ありがとうございます。不思議な郵便局の話をさせてください。
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瀬戸内海の真ん中に浮かぶ小さな島、粟島にある『漂流郵便局』をご存じでしょうか。“届くはずのない相手への手紙” を代わりに受け取って、大切に預かってくれるのだそうです。今は亡き大切な人へ、何年たっても記憶の隅にふらりと現れる元恋人へ、産めなかった赤ちゃんへ、過去や未来の自分へ──。“返事が来ないとわかっていても伝えたい気持ち” が手紙に託され、ここに流れ着くといいます。なぜ人は行くあてのない便りを送るのでしょうか。その理由が知りたくて、ここを訪ねることにしました。
出迎えてくれたのは局長の中田勝久さん(81)。まず郵便局が誕生した経緯を、お話ししてくれました。
「きっかけは3年前の『瀬戸内国際芸術祭2013』。現代アーティストの久保田沙耶さんが空き家だった局舎に明かりをともし、作品として開局しました。粟島は穏やかな海水が交差し、昔から多くの漂流物が流れ着く島。そんな歴史を知って、さまざまな思いの便りがここへ流れ着くことを発想し、現代アートとして展示することになったんです」
そのとき、粟島で郵便局長を10年務めた中田さんは、臨時局長に任命されました。1か月で約400通の手紙が届いたといいます。
本来なら、作品はここで撤去されるはずだった。でも中田さんはこの郵便局を残すことを望みました。
こんな郵便局を作ってくれてありがとう
「誰かに聞いてほしい思いを手紙に書くことで救われる人がいる。そう思ってね。“維持費は僕がもつ。毎日、郵便物にも目を通して大切に預かる。だから月2回だけ開局してみなさんに見学してもらうのはどうでしょうか?” 気づけば、そう口走っていました(笑)」
それから3年。約2万1750通が寄せられました。「今まで仏壇の前でブツブツ言うたり、日記に書くだけだった “どうしようもない気持ち” を手紙にして、投函すると、自分とこには戻ってこないじゃないですか。だから相手に届いたような気になるんでしょうね」
《こんな郵便局を作ってくれてありがとう》
そんな手紙がたくさん届くそうです。
印象に残る手紙もいくつか読ませてもらったんですよ。例えば、こんなもの。
「この手紙の題名は “隣の芝生は青い”。久々に会った旧友への本音です」
久々の再会で “あんたはいいね” と、友人に皮肉めいた羨望を向けられた嘆き。《何でもかんでも言葉にすればいいってものでもないのです》という言葉に哀愁がにじむ手紙でした。
虐待を経験した人の便りもありました。虐待に耐えた過去の自分へのありがとう。その強さに触れて涙がこぼれました。
「いちばん多いのはやっぱり亡き人への手紙ですね。小学生の息子が事故死して、母親は放心状態。心配したおばあちゃんが “お母さんが大変や、慰めてあげて” と語りかける孫あての手紙が何通も届くんですよ。もちろん、突然消えたペットの亀へ、未来の孫へ、なんて可愛いのもあるけどね」
手紙をしたためる──それは誰にあてたものでも、自分の胸にそっと耳を傾ける行為にほかならないのかもしれません。だとすれば、行くあてがなくても、人が手紙を書く理由がわかるような気がしています。 敬具
<漂流郵便局に手紙を出したい方はこちら>
〒769‐1108 香川県三豊市詫間町粟島1317‐2 漂流郵便局留
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