宿泊型客船も 瀬戸内で起こる現場主導の観光

2017年の訪日外国人旅行者は2869万人と過去最多に。規制緩和などで積極的にインバウンド対策を後押ししている安倍政権だが、地方のリアルな現状はどうなっているのか。エリアでブランド化を進め成功している、瀬戸内エリアの状況をレポートする。

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 関西空港や福岡空港からもアクセスのよい瀬戸内エリアの中でも広島県は外国人観光客に知名度が高い。トリップアドバイザーの外国人に人気の観光スポットランキング(17年)によれば、平和記念資料館と嚴島神社が3位と4位に入る。広島県観光課長の山本栄典さん(48)は、

「瀬戸内エリアの宿泊者数は、北海道や沖縄までは届いておらず、エリアでブランド化をしていく必要があります」

 と言う。単独で売り込むより、周辺の観光地が協力し合うことでその魅力も伝わりやすい。この瀬戸内エリアの観光振興は「せとうちDMO」という広域DMOが担う。広島県をはじめ、兵庫県、岡山県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県の7県をとりまとめて合同でプロモーションや受け入れ整備などを行う。DMOとは、もともとは欧米の概念。従来の観光協会などと違うのは、プロの人材によってマーケティングの結果を出すことにある。現在は、全国に150を超す組織が活動を展開する。2016年4月にスタートしたせとうちDMOが珍しいのは、地方銀行などの瀬戸内地域を中心とした金融機関が参加し事業者を支援している点だ。事業者は活動するにあたって出資を募ることができる。この形を提案したという前出の近畿大学の高橋教授はこう言う。

「せとうちDMOのようにファンド機能を持てば、新たなサービスや商品を生む資金支援も可能でしょう。持続可能というのは補助金をつぎ込むことじゃありませんから。客数が増えるだけじゃなくて消費額が増える取り組みをすることで地域が活性化します」

 このファンドの機能を使って、せとうちエリアでは続々とサービスが生まれている。せとうちホールディングスが運用する「guntu(ガンツウ)」という宿泊型客船の就航もそのひとつだ。旅慣れた人をターゲットにしていて2泊3日(2名1室利用)でひとり40万円~。ゆっくりと瀬戸内海を周遊する。まだ日本人の観光客が多いが、米メディアの取材があってから徐々に外国人も増えている。

 そのほかにも、昨年秋に開業した愛媛県内子町にある古民家を使ったゲストハウスにも注目が集まる。空き家を改修し、一棟貸しにした。運営するのは、内子町に住むNPO法人「Project A. Y.」の代表、大西啓介さん(45)である。この街の商店会長でもある。
「空き家対策になるんじゃないかと考えて始めました」

 空き家の持ち主は都会に住んでいて年に2、3回帰ってくるという人がほとんど。でも空き家は手放したくない。

「家賃を払い、持ち主には宿としていつでも帰ってこられる仕組みを整えることで需要と供給ができました」(大西さん)

 観光地が外国人にしっかりと認知されるようになるには、長い年月を要する。

 高松空港から車で約2時間、秘境であるにもかかわらず、外国人が続々と訪れている徳島の祖谷(いや)では、10年かかったという。祖谷のある三好市内のホテル5軒の合計宿泊者数をみると、現在は年間で約1万9千人宿泊しており、10年前の34倍になったという。市の人口にも近づいてきた。ホテルなども市や県と協力して祖谷の魅力をPRし続けた成果でもある。このエリアの宿の代表である「大歩危・祖谷いってみる会」会長の植田佳宏さん(53)はこう言う。

「行政は担当者が定期的に異動するので限界があります。でも私たちは変わらない。だから現場にいる私たちが、どこの国向けにどう売るかといった戦略を考えるんです」

 海外でのプレゼンテーションも買って出る。外国人観光客が増えることでタクシー会社や町の商店が潤った。祖谷に住む小中学生が絵を描いて説明したりと、外国人観光客のツアーガイドを行った。