<五輪スケート>高木姉妹、嫉妬も愛も 抜き抜かれし頂点に

感動しました! 

平昌冬季五輪は21日、スピードスケート女子団体追い抜きが行われ、日本が決勝でオランダを降して金メダルを獲得した。メンバー3人のうち2人は高木菜那(25)=日本電産サンキョー=と美帆(23)=日体大助手=の姉妹。先頭を滑る妹を姉が追い、途中で交代しながらゴールに進む姿は、これまでの2人の歩みに似ている。姉妹でつかんだ金メダルに、美帆はレース後、「このチームだからこそ、このチームで優勝したかった」と笑顔を見せた。

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 2010年バンクーバー五輪は、中学3年だった美帆が選ばれた。菜那は当時、北海道・帯広南商高2年。「スーパー中学生」と注目される美帆に、複雑な感情を抱くようになった。

 同校スケート部の監督として2人を指導した東出俊一さん(61)は、菜那から現地で応援した時の気持ちを聞いたことがある。「表向きは応援席からリンクの美帆に声援を送っていた。でも、心の中では『転べ』とさえ思っていた」

 美帆の五輪出場を機に、周囲からは「美帆ちゃんのお姉ちゃん」と呼ばれるようになった。東出さんは「菜那にとっては本意ではなかっただろう。妹への嫉妬が原動力になったのは間違いない」と振り返る。

 だが4年後のソチ五輪で、2人の立場は逆転する。

 13年12月の代表選考会で菜那が選ばれ、美帆は落選した。代表発表の会場に候補選手が顔をそろえる中、名前が呼ばれて喜ぶ菜那に、美帆はにらむような厳しい視線を向けた。東出さんは「美帆は感情を表に出さないタイプで、あんな目は見たことがなかった。初めての挫折。あの経験で殻を破ったのでしょう」と話す。

 ソチ五輪は現地には行かず、地元の北海道幕別町で開かれたパブリックビューイングで、団体追い抜きに出場した菜那を映し出すスクリーンを無言で見つめた。日本が4位に終わると、美帆は安堵(あんど)とも取れる大きなため息をついた。報道陣には「平昌に向けて2人で高め合っていきたい」とコメントしたものの、険しい表情が消えることはなかった。

 あれから4年。昨年12月の代表選手の記者会見には、隣り合って座る姉妹の姿があった。報道陣から「この喜びを誰に伝えたいか」と問われた菜那は「やっと姉妹で五輪に行ける。2回続けて親には気を使わせてしまった。今回は最高に楽しんで見てもらいたい」と答えた。

 次にマイクを回された美帆は「言われちゃった」というような困った表情を浮かべ、「五輪が終わった後に、心から伝えたい」と笑顔で質問をかわした。2人の気持ちが重なった瞬間だった。

 8年越しで結実した姉妹の夢。レース後、菜那は「みんなが見守ってくれたから優勝できた。みんなの応援が力に変わった」と目を潤ませた。